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画題「サナトリウムの君と僕」-秋風-

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[84]
2008/3/3 (Mon.) 02:02:13

 花梨
 2008/3/3 (Mon.) 02:43:10
涼しくなったな・・・
そういって 貴方は微笑む。
このサナトリウムのなかにも 紅葉の赤づいているのが見受けられた。紅葉をひとめ近くで見たいとしきりに貴方が言うから きょうは特別の外出だ。

素晴らしい秋晴れの遠くを見やりながら
季節がこんなに身近なのは ひさしぶりだなぁ・・・
と、貴方は幼子のような無邪気すぎる笑顔を向けた。

どうして そんな風に笑えるの? 
どうして 貴方は涙をみせようとしないの?
きのう また発作をおこして苦しんだというのに・・

ねぇ 人が死んだらどこに行くのか、知ってる?
ぼくは もうじきそこへ行かなきゃいけないみたいだからさ・・・
聞きたいんだ、その場所をね・・

ふふっと 微笑んだその顔は わたしが見てきた中で
一番 綺麗な微笑みだった。
でも、わたしには分かった。貴方はほかの誰よりも泣いているということが。

君なら きっと知ってるよね・・・
だって 君は風に乗ってあっちこっちへ旅してるんだから・・・

貴方の 真っ白い手にわたしを包み込んだ。
そのとき いたずらな秋風がわたしを 貴方の手から舞い上げた。

約束だよ・・いつかきっと・・・おしえてね・・・・

秋風に舞い踊りながら わたしは貴方に約束した。

えぇ、待っててくださいね・・必ず・・必ず貴方にその場所のことを お教えしますから・・・

        紅葉繚乱
           秋深し・・・


初めて参加しました花梨です。
ここには 頻繁に通わせていただいております!
とってもステキな絵版ですね・・・・
まだまだ みなさまには及びませんがこれからもよろしくお願いいたします。
ではでは!
 アニシード(管理人)
 2008/4/29 (Tue.) 17:35:32

あの日

貴方の手から飛び立った私は、風に乗り街を抜け遠い遠い国まで旅をした。
人が最後に行き着くところが一体どんなところなのか、それを知り、貴方に伝えるために。
どうかそこが素晴らしい場所でありますようにと祈るようなおもいを抱きながら。

ゆく先々で私は尋ねた。
ある船乗りはこう言った。そこは水底の楽園であると。銀色の尾鰭を閃かせ海草の森の間に舞う美しい姫君たちの国なのだと。
ある兵士はこう言った。そこは英雄達の故郷であると。誇り高く死んだ者達だけが迎えられる気高き永遠の王国なのだと。
そしてある科学者はこう言った。そんな場所などありはしないと。死ねば誰でも物になるだけだと。

私は分からなくなってしまった。
そのどれもが正しいようにも思え、そのどれもが間違っているようにも思えた。
誰よりも優しい貴方が行く場所は、一体どんなところなのだろう。
何時しか風は止んでいて、石畳に落ちた私は、遠く貴方のことを思い出していた。

優しい貴方。誰よりも優しくて強い貴方。
サナトリウムの白い部屋で、病のつらさに耐えながらも、いつも周囲の人々を気遣っていた。
涙を流すのは一人の時。誰かに見せるのは微笑みだけ。
苦しみも悲しみも嘆きも全てその胸に仕舞って、静かに、穏やかに、そのときを待っていた貴方…。

その微笑み、そのぬくもり、その、おもい…

そのとき再び風は吹き
私は空へと舞い上がった。
大きな風に抱き上げられるように、私はどこまでも高く、高く昇っていった。
街はもう見えない。海ももう見えない。視界を圧する雲の塊が迫る。その分厚いミルク色の霧を抜けたとき私は、

青の中にいた

果てしなく広がる澄み切った青。遮るものとてない、純粋な光に満ちた青の世界。

ああここが

ここがそうなんだ。


風は止み、私はゆっくりと落ちていった。
とうとう見つけましたよ。いつか貴方がいらっしゃる場所を。
そこはとても静かで清らかで、あたたかな光に満ちた素晴らしいところです…
貴方の窓辺に舞い降り、私はそう伝えたかった。
伝えたかったのに。

そこに貴方の姿はなかった。
灯りの消えた部屋には、シーツの剥がされたベッドと、主の居ない車椅子。
私に向けられた微笑みも、そのぬくもりも、その声も、
何一つ、残ってはいなかった。

あの日

私が貴方の手から飛び立ったすぐ後のことだったという。
部屋へと戻った貴方は、それまでにない激しい発作に見舞われたのだという。
窓の外の紅葉よりもなお紅くシーツを染めて、たった一人で事切れていたのだという。

どんなに苦しかったことでしょう。どんなにか不安だったことでしょう。
私がもっと早くに戻り、貴方の行く場所は穏やかな場所ですと伝えることが出来ていたなら。
ごめんなさい。ごめんなさい。
貴方は迷わずに行くことが出来たでしょうか。私ももう一度行きたい。行って貴方に謝りたい。行ってもう一度、貴方に、会いたい…



けれども再び風は吹かず、小さな紅葉は地に落ちて、そのまま朽ちて消え果てた。
朽ちた紅葉は根を上り、木の幹になり枝になり、届かぬ天へと手を伸ばし、
秋になるたび想いを燃やし、今でもその地に立つという。
天に焦がれて立つという。

 アニシード(管理人)
 2008/4/29 (Tue.) 17:36:11

初めまして、花梨さん。
ようこそお越しくださいました。いつも皆様の力作をご覧いただき誠にありがとうございます。
御返事が非常に遅くなってしまいまして本当に申し訳ありませんでした。こちらの管理人をいたしておりますアニシードと申します。

サナトリウムの庭を紅に染める紅葉。その一葉と若者のささやかな交歓。

苦しい発作に耐え、いま生きているこの世界の美しさを知り、いずれはここから旅立たねばならぬということに覚悟は出来てはいても、その向かう先が如何なる場所であるのかそれだけは分からない。
だからこそ若者は、その寂しさを物言わぬ一葉にそっと打ち明けたのでしょう。
若者のおもいを抱き、まるで王子を愛した小さなツバメのように、一葉は風に乗り空を舞います。
風の果て、空の果てに、一葉はその場所を見つけたのでしょうか…。

花梨さんの描かれる若者の曇りのない笑みと秘められた涙に、彼のことを愛した小さな一葉の遥かな旅が心に浮かびました。
儚い二人の、誰も知ることのない約束。
いつの日か、天に焦がれる一葉をすくい上げる風は、彼のかいなであるのかもしれません。


まるで秋の日差しのような懐かしい切なさに満ちた作品をどうもありがとうございました。
またいつか是非とも花梨さんの素晴らしいお話をお聞かせ下さいませ。
心よりお待ち申し上げております。
 アニシード(管理人)
 2008/6/23 (Mon.) 16:58:43
保存いたします
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[83]
2007/10/11 (Thu.) 22:55:49

 tori [HP]
 2007/10/11 (Thu.) 23:21:17
ぼやけていた死の影。
今ははっきり見える。

そいつは僕にそっくりだった。


こんばんは。
先日は素敵な絵をありがとうございました!
とても綺麗な掲示板ですね。
いつも何も考えずに落書きばかりしているのでお題のあるお絵かき楽しかったです。
でも私には難しかったようでただのホラーになってしまいました...バックは真っ黒ですが実はトイレ笑
せめてサナトリウムのトイレということにしておいて下さい...





 アニシード(管理人)
 2007/12/18 (Tue.) 04:36:59
ここへ来てどれほど経ったろう。

何の変化も訪れぬ日々。その単調な毎日の繰り返しに、時間の感覚もだいぶあやふやなものになってしまった。
季節の移り変わりを日めくりの厚さではかるようになってしまっては人間お仕舞いだ。

体調も、ここへ来て以来まるで変化がない。
だるさも微熱も相変わらずだ。さりとて辛いというわけでもない。
ここ数日急に冷え込んできたせいで多少風邪気味ではあるが、他にはたいした問題もない。

食堂からの帰り道、歩きながら廊下の窓ガラス越しに外の雑木林へと目を向ける。
赤や黄色に色づいた木々の葉、そこに薄く重なるように流れる僕の影、淡く何かに縁取られた影。
目を凝らすより先に廊下は尽き、右手に曲がればもう僕の病室(へや)だ。
ベッドに横になったら後は、いつものように文庫本へと手を伸ばす。
平板といえば平板、平穏といえばあまりにも平穏。
有り余る時間に嫌気が差して、開いたばかりの本を閉じ、右手の甲で瞼を覆った。
二つばかり咳が出た。

そしてその日も、体調は相変わらずだった。
ただ喉の奥が時々痞え、普段より咳が多かった。
食堂からの帰り道、いつものように窓の外の木々の葉を眺めながら歩いた。
赤や黄色、深みを増した晩秋の色彩が流れてゆく。
だがその流れが何故か速いのだ。いつもよりずっと速く、葉の色も逆巻く波のように激しく混ざり合いながら流れ去ってゆく。
しかしガラスに映った僕の歩みはそれに反比例するかのようにのろのろとして、今にも止まってしまいそうだった。
一歩、一歩、また一歩。
ぜんまいの切れたオルゴールのように僕の足はゆっくりと止まり、止まった僕の影の後ろから、何かが一歩前へ出た。

咳が、止まらなくなった。

よろけるように手洗いへ駆け込み、洗面台の両脇に手を突いて、息も継がずに咳き込んだ。
嘘のように大量の鮮血が陶器の内側を真っ赤に染めた。
息が出来ない。
びりびりと頭の中心が痺れ目の前が暗くなる。
だが、僕は堪えた。堪え続けた。意識だけは手放すまいと必死で。
やがて、永劫に続くかに思われた発作は唐突に終わった。
僕は動けなかった。洗面台で体を支え、その場に立っているだけでやっとだった。
インキのように鮮やかな血が排水溝に吸い込まれてゆくさまを見つめながら、僕はものを考えることすら出来ずにいた。
どれほどの時間そうしていたことだろう。
口を漱ぎたい。
浮かび上がってきたそんな思考と共に、僕の意識は少しずつ焦点を結びはじめた。
そしてゆるゆると顔を上げたとき、僕は見たのだ。
目の前の鏡の中から、僕を見つめているヤツの姿を。
白い影。
常に僕と共にあり、しかし決してその姿をはっきりと見せることはなかったあの影。
…いや、そうではない。
常に共にあることを知りながら、ヤツの姿をこれまで見ようとしなかったのはこの僕だ。僕自身だ。
やっと分かったか
まるでそう言っているかのようにヤツは笑っていた。嘲笑うかのように、でもどこか安堵したように笑っていた。
そう、僕と同じ顔で  笑っていたのだ。
 アニシード(管理人)
 2007/12/18 (Tue.) 04:37:36


toriさん、いらっしゃいませ。先だってはどうもありがとうございました。
せっかくお越しくださいましたのに御返事が大変に遅くなってしまいまして本当に申し訳ありませんでした。心からお詫び申し上げます。この掲示板の管理をいたしておりますアニシードでございます。

静かで穏やかで単調なサナトリウムでの暮らし。
青年もその寸分違わぬ毎日に飽き飽きしながらも、この日々がいつまでも続くことを信じ、さらに意識の深いところでは強く願っていたのではないでしょうか。
しかし彼の最も恐れるモノは実は彼の一番近くにいたのです。まるで彼のことを見守るかのように静かに寄り添い続けて。
そしていつか彼にも、そのモノと向き合わなければならない時が訪れるのです。
己と同じ姿をしたそのモノと。

toriさんの描かれる静謐でシャープなモノクロの作品に、日常の風景の中に不意に立ち上がる死の影のリアルさを感じ慄然といたしました。
暮らしのリズムには何の変化もなくとも、この日を境に青年の意識の持ちようはすっかり変わってしまったのではないか…そんな想像をしてしまいました。

サナトリウムのひんやりとした空気を感じさせる素晴らしい作品をどうもありがとうございました。
また是非ともtoriさんの素晴らしいお話をお聞かせ下さいませ。
心からお待ち申し上げております。
完全無料のコミュニティーサイト「センター」

[82]
2007/9/20 (Thu.) 04:14:57

 アニシード(管理人)
 2007/9/20 (Thu.) 04:15:08
***痩せた肩を撫でる風は遠い日々を思い起こさせ 青年達が静かに病を養うサナトリウムは今 輝く黄昏の季節の中にあります***

いつも素晴らしい作品を御投稿頂き、本当にありがとうございます。管理人のアニシードでございます。
この度、画題の副題を「秋風」といたしました。皆様の御発想の一助となれば幸いです。

(医者、患者、見舞い客等、登場人物はみな男性である作品を拝見できましたら幸いに存じます)


・【サナトリウム】…療養所。主に高原や海辺など空気の良い場所に作られた結核療養所を指す。
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[81]
2007/7/12 (Thu.) 21:44:56

 sima [HP]
 2007/7/12 (Thu.) 22:05:36
サナトリウムの庭に植えてある木の下で
俺は彼の不揃いな髪をゆっくりと撫でる。
彼の髪は驚くほど白くて
木漏れ日と一緒にきらきらと光った。
それは、彼の儚い命にも似て。
泣き出しそうな俺に彼はゆっくりと微笑みながら、言った。
「明日も、この木の下で会おう?」

“明日”がいつまで続くか、分からないけど。

****************

こんにちは。simaと申します。
「サナトリウム」という、不思議な響きを持つ言葉に惹かれて、やってきました(*´`)
一応設定としては、偶然このサナトリウムを見つけた青年と、療養している少年、見たいな感じです。すいません分かりづらくて・・・><

命って儚くて、だからこそこの一瞬が大切なんだなあって思います。
サナトリウムは、そういうことをゆっくり考えられる場所なんじゃないでしょうか。

では、失礼します^^
 アニシード(管理人)
 2007/7/17 (Tue.) 04:00:44
その大きな木の下で 俺は彼の頬をそっと撫でる。
彼の頬は驚くほど白くて
木漏れ日が当たることさえ毒になるのではないかと思わせるほどだった。
抱き寄せる肩の細さ 真っ白な髪のやわらかさ
その全てが予め失われることを約束されているのだ。
何も言えずにいる俺に 今日も彼は微笑んで言う。
「明日も、この木の下で会おう?」


そう、そんな”明日”が続いたのは 一体どれほどのことだったろう。
暗い病室の中
陽光煌く絵画をはめ込んだような窓から 遠くあの木が見える。
やわらかな髪を撫でても もう彼は微笑んではくれない。

****************

初めまして、simaさん。
PR掲示板よりようこそお越しくださいました。どうもありがとうございます。
御返事が大変遅くなりまして申し訳ありません。こちらの管理人をいたしておりますアニシードと申します。

aquarium、vivariumなどの単語から考えますに、"rium"とは「何がしかの目的のために作られた閉じた場所、園」を意味する言葉なのではないかと思います。
その伝で参りますとsanatoriumは”癒しの園”。他の単語からの連想で、私の心の中ではサナトリウムというものは「透き通ったガラスで外界から隔てられた儚くも清浄な緑の園」のような印象となっております。

 アニシード(管理人)
 2007/7/17 (Tue.) 04:07:06

きっとその美しい庭は、蔦飾りのついた鉄柵の門の間からいつでも窺うことは出来たのでしょう。
でもその高い塀に囲まれた施設が一体なんであるのかを強いて考える人はおらず、興味を抱いて足を止める人もありませんでした。
きっと青年もまた、そんな人々のうちの一人であったのでしょう。
でもあるとき、ふと目を向けた緑の庭の大きな木の下に少年の姿を見つけるのです。痩せて小さな、真っ白な髪をした少年の姿を。
視線を感じた少年も顔を上げこちらを向きます。そして青年に微笑んだのです。まるで、”ずっと待っていたんだよ”とでもいうかのように。
その大きな木の下で、二人は話をするようになりました。
少年は素直で明るい子供でした。青年のする外界の話を目を輝かせて聴いていました。そしてまたこの場所にある花や木や草の美しさや不思議さについて楽しそうに話をするのでした。
他愛の無い、しかし何よりも幸福な時間でした。
でも青年には分かっていました。この幸福が終わりを迎えるのはそう先のことではないであろうということが。
少年の透き通るように白い髪を撫でる度、軽すぎる体を抱き上げる度、青年はその冷たく厳然とした未来を胸の内で噛み締めていたのです。

そして今、青年は暗い病室の椅子に腰掛け外を見ています。
あの木は今日も変わらず、陽光煌く庭でその豊かな緑の葉を風にそよがせています。
青年は静かに眠る少年の髪を撫で、そっと額に口付けをしました。
恐らくはもう二度と目を覚ますことは無いであろう少年の、その寝顔が安らかであることだけが、青年にとってせめてもの救いなのでありました。


きっと俗世から切り離されたサナトリウムという場所は、simaさんの仰るように、命というもの、生きるということ、今この瞬間に命ある自分と向き合い、考えることの出来る(考えざるを得ない)場所なのでしょう。
この場所で長く自分の心と向き合ってきた少年は、青年と話をすることで、”人間としての幸せ””命あることのありがたみ”をより深く悟ったのではないでしょうか。


煌く夏の木漏れ日のような、儚くも穏やかな作品をどうもありがとうございました。
また是非ともsimaさんの素晴らしいお話をお聞かせくださいませ。
心よりお待ちいたしております。

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[79] 動画
2007/5/20 (Sun.) 02:11:51

 ケイシ [HP]
 2007/5/20 (Sun.) 03:02:04
「病気のために、きれいな顔立ちになる…という話を聞いたことはあるかい?」
彼は、興味がないような口調で話す。
多分、僕との無言の空間を埋めるために。
「彼女が、話すのだよ。女が本当に美しくなれるのは死んだ時なのだと。身体中から硬さがとれて、しなやかに美しくなれるのだと。」
僕は、目を閉じた。
風が吹く。耳が風の音でいっぱいになる。
「…」
もう、彼の声は聞こえなかった。



はじめまして、アニシード様。
PR掲示板から、画題に惹かれて参りました。ケイシと申します。
こちらの掲示板には、美しい絵と繊細な物語が多くあって、読みふけっておりました。
雰囲気がある絵を、文をつくりだせるのは、素晴らしいですね。
…便乗して、私も描かせていただきました。
患者の少年と、少年の姉の婚約者の青年です。
青年は少年が嫌いではないので時間を見つけては見舞いに来ます。しかし気配りが苦手なので、姉の話題をよく持ち出します。
少年も青年が嫌いではないので、どんな残酷な話題でもいつもは黙って聴きます。でも今日は…という絵です。
緑陰なのに爽やかではないですね、すみません。

今回はこの辺で失礼させていただきます。
素敵な画題を、ありがとうございました。
 アニシード(管理人)
 2007/5/21 (Mon.) 02:42:49
こんなことを話すつもりじゃあなかった。

僕は口を噤み、彼の横顔を盗み見た。
辛そうに閉ざされた瞼。微かに顰められた眉。
嗚呼まただ。全くなんということを。
だが「済まない」とその一言が何故か言えぬのだ。僕はいつもそうなのだ。
言葉を飲み込んだままの白い喉を見つめているうち訳の分からぬ苛立ちが募り、僕は知らずに煙草を銜えていた。
強い風が吹く。
大きく揺れる木々の葉、明滅する木漏れ日。

流れる紫煙の中
少年が咳き込んでいる
突っ伏し震える小さな背中を擦る素振りで僕は
そっと体を寄せる
そして再び、紫煙を零すのだ
薄く開いた笑みの隙間から

強い風は止まず、
木漏れ日は目を射るように煌く。
僕は懐のマッチに伸ばし掛けた手を戻し、銜えた煙草をケースに仕舞った。
「少し冷えてきたようだ。そろそろ戻ろう」
僕の声に彼は閉ざしていた瞼をそっと開き、視線を落としたまま小さく頷いた。



初めまして、ケイシさん。
PR掲示板よりお運び下さいまして誠にありがとうございます。
こちらの管理人をいたしておりますアニシードと申します。
いつも勿体無いほどに素晴らしい絵画と物語を皆様に御投稿頂き、この絵掲示板の運営を出来る幸せを日々感じております。
この度新しくいたしました副題「緑陰」は実は、爽やかな日差しの中の陰、木漏れ日による幻視など、明るさによりむしろ際立つ”翳り”の部分をイメージして設定をいたしましたものでございます。
ですのでケイシさんの御投稿を拝見しとても感激してしまいました。明るい木漏れ日の中、細かな硝子の欠片のような痛みを孕んだ物語に…。

青年は婚約者となる女性と知り合い、そして彼女の弟である少年を知ったのでしょうか。それとも少年を先に知っていてその上でその姉と婚約を…。
女性は自分の弟の見舞いによく行ってくれる婚約者にいつも礼を言っていることでしょう。そしてその度に青年は答えるのでしょう。『いずれは僕の弟だ、気にしないでくれたまえよ』と。
少年は彼の見舞いを待ち焦がれていることでしょう。しかし青年は無口で、たまに口を開いたかと思えば語られる言葉は胸の奥底に小さな傷を作るようなことばかり。
青年は見舞いから戻るたびに苛立ったように煙草を口にすることでしょう。『ああ、大丈夫だとも。今日も彼は顔色が良かったよ』報告は毎回決まりきった投げ遣りなもの。それでいながら毎週のように弟の見舞いに通う婚約者に、女性は礼を言い続けるしかなく…。

苛立ち、疑念、悲しみ、諦め……誰一人として幸福ではないのに、誰もそこから逃れられない。
互いに対する気遣いの砦を誰かの想いの狂気が突き破るとき、この静かに抑えられた関係は、甘く激しく美しい悲劇的な結末を迎えるのではないかと想像いたしました。また密かにそうなることを期待も…。

眩い木漏れ日の中に煌く痛ましい想いの物語をどうもありがとうございました。
また是非ともこちらにお運び頂き、素晴らしいお話をお聞かせくださいませ。
心からお待ちいたしております。

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